男性不妊の治療

不妊と聞くと、一般的に主に女性に問題があると想像する人が多いかもしれません。しかし、WHO(世界保健機構)の不妊症原因調査では、男性のみ24%、女性のみ41%、男女とも24%、原因不明11%と報告されています。つまり48%は男性側に問題があります。

このページをご覧の方は、少なからず妊娠、精子に関するお悩みをお持ちの方ではないでしょうか。 率直にいいますと、精子数が少ない、精子の運動率が悪い、精子の奇形が多く見つかってしまったなど、いわゆる男性不妊の検査を受けたことがある方だと思います。

このページは、検査結果で、正常値に達しなかった方、正常値には至っているが、理想ではない方、どちらの方にもわかりやすい情報、治療法をご紹介したいと思います。

最近では、男性側の不妊治療も必要だという認識が広まりつつありますが、治療していない方、治療の成果が出ていない方、途中で断念した方、治療したくてもどうしていいのかわからないとお悩みの方が多く見受けられます。

当院では、このような男性を対象に男性不妊専門の外来を設けています。
この専門外来では、平成元年よりおこなっている不妊治療の経験から、一人一人の患者さんにあわせた治療方法を構築し、かつ患者さんの意向を治療方針に反映させています。


男性不妊の原因と種類

男性不妊の原因は大きく分けると

  1. 造精機能障害
  2. 精路通過障害
  3. 性機能(性交)障害

の3つがあり、原因の約90%が造精機能障害です。

造精機能障害は、精子をつくり出す機能自体に問題があり、精子をうまくつくれない状態です。
精巣やホルモン分泌等の異常が障害をひき起こします。

造精機能障害には下記のような種類があります。

無精子症 造精機能障害の中でも重い症状です。精液中に精子が一匹もいない状態ですが、精巣や精巣上体に精子が存在していれば、顕微授精などの不妊治療で受精・妊娠することが出来ます。
乏精子症 精液の中に精子はいるけれど、その数が少ないという症状です。精子の数が基準を少し下回る程度であれば、タイミング法などを行います。さらに精子の数が少ない場合、人工授精、体外受精、顕微授精等の不妊治療を行います。
精子無力症 精子の数は正常にあるけれど、製造された精子の運動率が悪い症状です。その精子の状態により人工授精や顕微授精などの不妊治療を行ないます。

男性不妊のその他の原因と種類は

精索静脈瘤 陰嚢内の温度が上がる等から精巣の発育不全などを発症し、精子形成に悪影響を与える
閉塞性無精子症 精子の通り道である精管の一部がつまる等癒着しているため、精子が運ばれずに、精液のなかに精子がいない状態
膿精液症 前立腺や精嚢等の炎症により、精液中に白血球が増え、精子の運動率を低下させている状態
無精液症 精液が造られない状態
勃起不全(ED) 性交時に十分な勃起が得られない、あるいは十分な勃起が維持できない、満足な性交が行えない状態
膣内射精障害 膣内で射精することが困難になる状態

といったものがあります。

健康な精子の基準

WHOが定める正常精液の基準

ご存知の方も多いと思いますが、健康な精子の状態の基準をご紹介します。
西洋医学では、様々な検査があり、その基準値を決めています。基準値を下回ったり、上回ったりすると病気とみなすのです。男性の精子の場合、精子の濃度、運動率、奇形率などから基準を下回ると乏精子症、精液中にまったく認められない場合に無精子症と診断をします。
また、無精子症はまったく精子が認められない無精子症(非閉塞性無精子症)と、精子の通り道である精巣輸出管、精巣上体管、精管、射精管が塞がっているため十分な精子が射精されない無精子症(閉塞性無精子症)の2つに分類されます。

乏精子症の原因には、精巣を取り囲む静脈がうっ血してコブのような腫れを作る精巣静脈瘤や、精子を作る機能がうまく働かず、十分な精子が作られない造精機能障害などがあります。また、いくら検査をしても原因が判明しないことも多々あります。鍼灸治療では、静脈瘤などの異常がないものに対し、特に適応、治療効果がのぞめます。

非閉塞性無精子症は無精子症の約80%を占め、視床下部、下垂体ホルモンの異常と、精巣(精子をつくる機能)異常の2種類が原因となります。

閉塞性の原因には、過去に尿路感染、精巣上体炎、性感染症、鼡径(そけい)ヘルニアの手術などの既往がある方に起こる場合があります。

精子の状態を理想に近づけるためには、非閉塞性の場合、顕微鏡下精巣内精子採取等をおこなう前に鍼灸治療をしておくほうがいいです。また、閉塞性の場合、閉塞の原因を手術等処置した後に機能回復させるために鍼灸治療をおこなったほうが好ましいです。

正常精液の基準

WHO(世界保健機構)の精液検査の正常値(2010年)

精液量 1.5 ml以上
精子濃度 1 ml中に1500万個以上
総精子数 1 ml中に3900万個以上
運動率 40%以上
正常形態率 4%以上(奇形率96%未満)
総運動精子数 1560万以上(総精子数×運動率)

正常値との違い

正常 総精子数3,900万個以上
運動率 32% 以上
正常精子 4% 以上
乏精子症 総精子数3,900万個未満
精子無力症 運動率 32% 未満
奇形精子症 形態正常精子 4% 未満
無精子症 射精液中に精子が無い

男性不妊に対する鍼灸治療

男性不妊の治療

精子は、精巣の中にある精細管で
精祖細胞→精母細胞→精子細胞→精子
と細胞分裂していきます。精子へ成長すると、精巣上体に移動し、10~20日かけて成熟、泳ぐ力や卵子に侵入する力をつけます。

ここまでの過程を経過するまでに70~80日かかるとされています。つまり、元気な精子を射精するには80日前から準備が必要ということです。

補足として、射精後5~6時間で受精能力が完成し、4~5日生きるとされています。また、女性の子宮頸管→卵管へと進むまでに次々と脱落し、卵管までたどり着ける精子は正常な総精子数3900万個以上のうち数十~数百となっています。その中のたった1個が、卵子の中に入り込むことができれば受精となります。

精子の数が少ない・運動率が悪い、奇形が多いなどの状態は女性のホルモンバランスと同様、生活習慣や疲労など体の状態によっても大きく左右されることがおわかりでしょうか。

疲れがとれない、ストレスが溜まっている、腰が痛い、暴飲暴食、急激に体重が増えた、夜勤があるなど思い当たる人は要注意!体が元気でなければ良い精子は生まれません。

鍼灸治療をすることで骨盤内、特に精巣を中心とした血液循環が良くなり、同時に自律神経のバランスが整うことで、精巣の働きが高まり、精子の数や運動率が改善されます。

鍼灸の治療効果は、早い人では1回目の治療後から体感できます。前述のように、確実に男性不妊を改善させるには、およそ3ヶ月治療を継続することです。治療の頻度、期間等は、初診時に体の状態をみてご説明いたします。病院での治療と併用して構いません。その方が確実に効果があがります。

男性不妊のツボ

精子の数を増やし、運動率を上げ、奇形を減らすツボ

命門(めいもん)

命門は、腰の一番くびれている高さにあります。

命門は、生命の根源、先天の気が宿る場所、命に力をつけると言われ、停滞しがちな気血の流れを整え、体力・気力共に増強させてくれます。

虚弱体質な人、体力が落ちている人、強いストレスが蓄積している人は、命門に刺激を与えることで、からだが活性化し精巣の機能が回復します。

腎兪(じんゆ)

腎兪は、命門から指2本分くらい外にあります。

「腎」とは精を蔵し、生命力の根源である元気をもたらすもの。
「精」とは、親から受け継いだ精と飲食物から作られる精に分けられます。
後者の精により常に補充されています。体が弱ってくると、この精を作れなくなったり、溜められなくなってしまいます。腎兪を刺激することで、命門同様に精巣の正常な機能回復を助けてくれます。

関元(かんげん)

へそから指4本分下に位置する関元は泌尿生殖器系のトラブルに万能のツボです。そのため、精子の数が少ない、運動率が悪い、奇形が多いなど男性不妊に重要なツボとなり、EDに対しても効果があります。

本来、関元は体が元気になるために必要なエネルギーが集まるツボとされています。お灸で関元を温めることで、体力を蓄え、男性生殖機能を高めます。

復溜(ふくりゅう)

復溜は、内くるぶしから指3本分上側で、スネの骨とアキレス腱の間にあります。

復溜は、腎虚(じんきょ):腎が弱っている時に助けてくれるツボで、もともとツボのつながりである経絡の腎経に属しています。

体がだるい、手足の冷え、腰痛、精力減退、耳鳴り、めまい、食欲不振等、体力が弱っていると感じている時に現れる症状がある時に効果のあるツボです。

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